The Sequence Music

録音、記録、ミニッツ

 あんなにも煌めいて見えた海面の光も、沈むほどにグラデーションを描いて、やがて消えていった。
重力がまわるの身体を鷲掴みにして、下へ下へと引き込んでいく。凍えるほどの冷気が身体を突き刺すが、抵抗するにはこの海はあまりに大きすぎて、もはや気力もわかず、なすが儘に落ちていく。
寒いとか重たいとか、やがて人間らしい感覚もなくなっていく。
今まわるの胸を打つ心臓の音だけが、唯一ここにあるものだった。
自分が呼吸できているのか、どこにいて、何を考えているのか、ただでさえ曖昧だった存在証明が希薄になっていくのを感じる。縋れるものは淡々と脈打つ胸の鼓動だけ。
縋ることもせず、ただ心音に耳を澄ます。
思えば、ずっとそうだった。
ずっと自分の中にある曖昧な音をかき集めて音楽にしてきた。自分の記憶が色づくような気がしたから。今の状況と何も変わらない。曖昧な自分を変えたくて、機械的に刻むビートを頼りに世界を彩ろうと足掻いてきた。

(でも、何も変わっていないのかな……)

無機質に連続する行動。

音を組み上げて、自己を確立して、また崩す。エンドレス。

秒刻みの鼓動に意味を見出して、疑って、不安になって、安堵して。

……疲れて。

朦朧としながらも辛うじて、まわるは意識を保っていた。
心音を聞くことすらやめてしまったら、もう自分の存在は消えてしまうような気がして、それだけは許容できなくてこの世界に留まっている。

(……でも、もういいかな)

まわるは何となく、自分が何者なのかわかったような気がした。

(誰かにとってのわたしって何だろうか。すごく二次元的な、記号のようなものなんじゃないかな? なくした過去の記憶なんて本当は存在しなくて、今こうして生きたいと足掻いている私も、膨大なデータの海の中の、かすかなノイズやバグのようなでしかないのかも。空を飛んだり、星空を巡ったり、カフェで美味しいものを食べて、ゲームセンターで熱くなったり。……自分の居場所で、いたはずの誰かの面影を追うことも。その全てが誰かが作った設定で、記号でしかないのかなぁ)

永遠にも思えるほどに深い暗闇に沈んでいく中で、ぼんやりとその悟りを咀嚼する。

(もう、どうでもいいかな……)

考えることをやめよう。
いまはただ、心が刻む音に耳を澄ましていよう。

どれほどの時間がたったかも曖昧なまま、まわるは混濁する意識を手放して、その音を聞くのをやめた。

シナリオ:yuu
https://x.com/chiru_yt

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