雲の散歩 long ver
ふわふわですね!
short ver.
気が付くと、まわるは浮遊感の中で微睡んでいた。
今まで自身が何をしていたのか、どのように人生を歩んできたのか、疑問がぼんやりと膨らんでは弾けて消える。それを無感動に繰り返しては、寝がえりを打っている。
閉じた瞼に柔らかな光が注ぐのを感じる。どうやら今度の場所はずいぶんと寝心地がよい、穏やかな場所のようだ。まわるは静かに息を吸い込むと、それをゆっくりと吐き出していった。
やがてゆっくりと瞳を開くと、まわるは真っ白な真綿に自分が沈み込んでいるのを理解した。
空を見上げれば、辺りは柔らかで優しい光に満ちていて、透き通るような青空の中に美味しそうな綿雲が浮かんでいる。
特にあのピンク色の雲は甘い香りがして、めいっぱいに口に頬張ればふわふわのわたあめの味がするのを知っている。
……溜め息をひとつつく。
既知の景色、既知の体験。初めて体験した時あれだけ色鮮やかに感じたはずなのに、今は全てが空虚に感じた。この記号の世界も存外バリエーションが多くないのだろうか。唯一の救いは、今の空間がひどく穏やかなことくらいか。
……緩慢な時間の流れに意識を委ねて、ぼんやりと雲の彩光を見つめる。それらは気流に乗って、ゆっくりと進んでいく。まわるが身を任せている雲も、きっと同様に流されていっている。まわるはそれでいいと思った。
まわるの心はある種、諦観の境地にあった。長閑な青空のキャンバスに、まだ食べたことのない色の綿雲を見つけても、どんな味がするだろうと寄ることもしない。空は彩り豊かに表情を変えていくけれど、ここは全てが作り物めいていて、体験全てが空虚に感じられてしまう。すると途端に、何もする気が起きなくなってしまうのだ。
ただひたすらに、風に乗って流れていく雲を見送る。時間は確かに流れていく。心臓がとくんとくんと鳴っている。まわるはただその事象をなんとなく観測し、特に何を思うこともなくそれを受け入れる。
瞼を閉じてみると、まわるの睫毛をさわさわと風が撫でる。瞼を射す陽の光を避けるように、雲のベッドへと顔をうずめた。眠ることで意識を消すことが今のまわるにできる精一杯の抵抗だった。
まわるは願った。もし全てが夢と幻であるならば。目が醒めた時に、何事もなく本来の自分の生活に戻ることができますように。
そのことだけを切に祈りながら、まわるは意識を深くに沈めていった。
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