雲の散歩
ふかふかのカーペットみたい。
long ver.
まわるは浮遊感の中で微睡んでいた。
今まで自身が何をしていたのか、どのように人生を歩んできたのか、疑問がぼんやりと膨らんでは弾けて消える。その繰り返しの中で寝返りを打つ。なんだかふわふわと心地の良いベッドに包まれて、ころころと転がる。全身を包むもこもこした感触が心地よい。どこの毛布だ? なんて暢気なことを考えながら、まわるはゆっくりと起き上がり、重たい瞼を擦りながら瞳を開く。
夢の中で見ていた星明かりの世界とは打って変わって、そこは柔らかな陽の光に満ちていた。
透き通るような青空の中、まわるの身体はふかふかの雲に包まれていた。今のまわるを支えるのは一面に広がる雲の海。まわるが試しに雲を手で救ってみると、それはもちもちと不思議な弾力を帯びていた。まるでお餅のようだとまわるは思った。七輪で焼いたらさぞかし美味いだろう、なんてよからぬ事を考えていたら、仕舞いには戸惑いよりも、好奇心が勝ってしまっていた。
意を決して立ち上がってみる。まわるの踏み込んだ足元を、雲が包み込んだ。ぽよぽよと沈み込む足元にまわるの体幹が揺れる。新鮮な感触に少し楽しくなってしまい、思い付きで軽く跳ねてみる。すると、まわるの身体はぴょんっと跳ねた。50センチほどだろうか。トランポリンに乗ったような心地にまわるは嬉しくなって、一歩、二歩と、踏み込みを強めて飛び跳ねた。するとまわるの身体はぴょーーーんと、3〜4メートルほどの放物線を描いた。想像以上の跳躍に心構えができているはずもなく、美しい着地も構わずまわるの身体は雲の上をぽよんぽよんと転がった。
……全然痛くない。
まわるは調子に乗った。有名な童謡の一説、「犬は喜び庭駆け回り」を地で行くようなはしゃぎっぷりで、所構わず跳ね駆け回った。
すると、高く飛び込んだまわるの視界が、ピンク色の雲に覆われた。ほのかな甘い香りを感じたのも束の間、重力に従ってまわるの身体はピンク色の雲を抜けて下に沈んだ。
あの一瞬でまわるは確信した。
「わたあめだ!!!!!」
まわるの瞳がキラキラと輝く。憧れに直面した子供のように、衝動的な熱を帯びて、まわるは足元の雲に接地した瞬間にぐんっと深く踏み込み、今度は今までよりずっと高く飛び上がった。頭上に浮かぶピンク色の雲に向かって、まわるは全身を大きく広げてその雲に飛び込んだ。
甘味がまわるの全身を駆け巡った。
まわるはお腹が空いていたのだ。雲がお餅に見えたし、宇宙空間で光線を引き裂いた時だって裂けるチーズをはむはむすることばかり考えていたのだ。
「おーーーーーいしーーーーーーー!!!!!!!!」
そもそも、甘いものはまわるの一番の好物なのだから、こうして雄叫びに喜びが満ち満ちるのも、彼女にとっては無理もない事なのであった。
*
……次第に青空が色味を変えて、夕焼け色に染まる頃。まわるはもう食べきれぬと言わんばかりに、勢いよく雲のベッドに倒れ込んだ。まわるの身体を心地よい疲労と充実感に満たされる。
そうして全てが満たされた幸せなひとときを漫然と過ごしてしばらくした後に、ようやくまわるは思い至ったのである。
「……ここはどこ?」
どこか遠くの方から、カラスの鳴き声が聞こえたような気がした、まわるちゃんなのであった。
シナリオ:yuu
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