sunrise
朝日が出るまでの空気感、いいよね。
] まわるはゲームセンターでゲットしたテディベアを財布のファスナーに早速取り付けた。財布を持つ手を目線の上に伸ばして、2匹のテディベアを揺らしてみる。かつての自分が手に入れたものと今の自分が手に入れたもの。なんとなくこの二頭の子熊が仲良くじゃれているようにも見えて、まわるの心はほんのりと暖まった。
そうしてどこか落ち着かない、けれどなんとなくの心地よさを感じながら歩いていくと、家にたどり着いた。相変わらず人の気配はない。
少し胸がちくりとするが、まわるにはそれが何となく慣れたことのようにも感じられた。
そのことを深く気に留めることもなく、まわるは早々に寝支度に取り掛かる。今日の出来事を思い返す。色の濃い一日だったように思う。かつての自分が知っていたはずの日常を体感した感覚がある。それは、記憶を失ったまわるにとって、新鮮な冒険に変わりなかった。
明日はどんな冒険になるだろうか。
仄かな不安は深く深くににしまいこみ、期待に胸を膨らませて、まわるはもぞもぞと布団に潜り込むのであった。
*
すぐに夢だと気づくことがある。あり得ないことばかりが立て続けに起こり、音喜多まわるを取り囲む環境全てが不自然な未知に満ち溢れている。
それは記憶を失ってからこれまでの全てに言えることだろうか?
少なくともまわるにとって今日までの出来事は全てが不思議な出来事であった。
まわるは見知らぬ草原の中で、1人佇んでいた。それまで来ていたはずのパジャマも、寝ている間くるまっていたふかふかの羽毛布団もどこへやら。まわるはいつもの制服を着ていて、ただぼんやりと柔らかな陽の光に包まれていた。
夢だとわかっているせいか、特に感情が波打つこともなく、凪いでいる。陽光が天に昇るのを、まわるは無心で見つめていた。
朝の、少しだけひんやりとした風がまわるの髪を揺らす。雄大な草原はさわさわと鳴って、それがまわるには自分をどこかに誘っているように見えた。追い風を受けて、まわるはぽつぽつと歩き出した。
不思議なことに草の根をかき分ける必要はなかった。まわるの歩みに合わせて草木はまわるを避けるようにすり抜けていったのだ。夢だからなんだろうなぁ、そう漫然と思いながら歩いていく。すると、追い風が一瞬、向かい風になって吹き抜けた。
まわるの歩みは徐々に早まり、やがて駆け足になって草原を渡り出す。期待がまわるを突き動かした。あの追い風の中に、まわるが求めている「音」が紛れていたのだ。
うきうきと、音のなる方へ。
まわるの現実はもっと無味乾燥で、起伏のない孤独であるはずなのに。なぜそんなことを思ってしまうのか、まわるはわからない。わからないから、音楽を感じた先に赴く。世界を旅する。音喜多まわるを補完するように、歩いて走って。
やがてまわるの身体は星の重力に反して、宙へと浮かび上がった。
シナリオ:yuu
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