hello new world
新しい冒険がここからはじまる!
夕暮れの日に照らされる街の中に、まわるはぽつりと立っていた。
ぼんやりとその場に立ち尽くしてしばらくして、まわるはようやく周囲を見回した。そこでようやく、ここが知らない場所だということを理解した。
頭をうんと捻る。ここはどこで、自分がどうしてここにいるのか、まわるにはとんとわからない。まわるが自覚しているのは、自分の名前が音喜多まわるであることだけ。
のんびりやさんのまわるだが、さすがにまずいと気を取り直し、とりあえずで歩き出す。不思議な街並みだ。多種多様の建築様式の建物、十人十色の人々。
見たことないで溢れている景色。ここには自分を知っている人はどこにもいない。歩みを早める。心がざわざわする。不安で足を止めてしまいそうになるが、まわるは歩みを止めない。
根拠はないが確信があった。明確な意思をもって進んでいくと、夕日の射す方に「音」を感じた。それが実際に聞こえているわけではない。それはまわるの中で形容しがたい感覚で、勘のようなものに近い。ただ心が惹かれる方向に懐かしい何かがあって、それが強くまわるを呼んでいるように感じられたのだ。
曲がりくねった路地を抜けて、塀の上をすり抜ける野良猫に倣って行き止まりを乗り越える。周囲の人々が不思議そうに見つめるが、関係ない。その「音」にだんだん近づいていくにつれ、まわるの中でそれは明確になっていって、いつの間にかその「音」を口ずさんでいた。歩みを越えてまわるの足はアスファルトを駆け抜けて、控えめに歌う声は次第に大きくなっていく。夕日の射す方向に向かい、緩やかな坂を息を切らしながら登っていく。
やがて坂のてっぺんにたどり着くと、そこには絶景が広がっていた。夕日に照らされる街並みを見下ろせる小高い丘。見下ろす景色の中で、たくさんの色が広がっている。家族三人で手をつなぎながら帰路につく様子。ビビッドな色合いの屋根の連なり。空には一番星がきらめき、茜色が群青に変わっていくグラデーションが雲にかかる。雄大な自然と人の築き上げた文明と温もりが織り交ざるそんな光景に触れると、まわるの感じていた「音」が疾走感あふれる「音楽」となって、丘の上から街に降り注ぐ。まわるの心に、遠い記憶が浮かび上がる。それは記憶の欠片。まわるが失くしてしまった記憶の断片。まわるにもかつて、家族の存在があった。顔は朧気で、うまく形を捉えることはできないけれど、それでも確かにいたのだ。心の内で抱えていた不安が空に溶けていく。気づけば丘の先を突き抜けて、まわるは宙に向かって飛び込んでいた。後先なんてわからない。ただその衝動の赴くままに、新たな冒険の予感だけを信じて、心に浮かんだ言葉を叫ぶ。
「さうんどみにっつ!」
瞬間、地面に向かって落ちていくまわるの身体が浮遊感に包まれる。時間と空間の概念がゆがむ。まわるは直感した。これは旅立ちの言葉。新たな世界に飛び立つための魔法なのだ。
音楽を通じて世界を巡り、記憶の欠片を探す。それこそがまわるのしなければならないこと。やがてまわるの身体は時空の渦に吸い込まれて、夕闇に溶けていった。
旅立つ先の世界にはどんな景色が、音楽が待っているのか。笑ったり、まったりしたり。時に悲しみを乗り越えて。きっとそんな体験が、まわるを待っているのだ。
まわるの記憶を取り戻すためのあたらしい冒険が、ここからはじまる!
シナリオ:yuu
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