sea of stars
大きな海を照らす星々。
音喜多まわるは一面が濃紺色の世界で、ひとりぽつりと立っている。まわるが宙を泳ぎ切った頃には、大きな月はたくさんの小さな雲の隙間に隠れてしまって、まばらな月光がちらちらと水面を揺らすのみ。光量が減ることで、深まった空の青に海が暗く染まっていた。
まわるは少し困って、空に浮いた体を一回転させた。少しばかりの逡巡。緩やかに一回転した身体はまわるの意思に反してブレーキもなく運動を続けるものだから、止まれ止まれと手足をバタバタさせて抵抗すると、まわるの意思に呼応するように動きは止まった。
息を整え、そっと水面の上に降り立つようにつま先をつける。水はまわるの重みに何故か反発していて、まわるは海に沈むことなくその場に立つことができた。恐る恐る一歩を踏み出してみる。すると身体は沈むことなく、しっかりとその水を踏み締めることができた。
奇妙な興奮の中、まわるは暗い水上を歩いていく。方角は覚束ない。正しい道もなければ、標となる何かもない。だけど怖気はなくて、まわるはただ無心に歩んでいく。きっと歩いていく先に何かがあるのだと、不思議と確信していた。
ふいに、一羽の海鳥が遥か上空を通り抜けていく。暗闇の中でも何故かそれははっきりと視認できた。海鳥はまわるに向かって甲高い声で一鳴きすると、まわるの真上を通り過ぎていった。
……きっと彼の瞳には、静かな海の中をぽつりと小さな点が進んでいくのが見えているだろう。そしてそれはきっと、とても不思議な光景に違いない。まわるはその想像が何だかおかしくて、くすりと笑った。
すると、足元の黒地の海面にぽつりと光が灯った。
海面に手をつき、どきどきしながらその光に目を凝らした。
初めは一つだけの光だった。雲間から溢れた一番星だろうか。頼りない光がひとつ、ひとつと海面に広がっていき、やがてそれは地平線の先まで、駆け抜けていく。
空を見上げる。水面に散りばめられた数多の星々が視界一面の大きな空に映っている。
まわるは胸がいっぱいになって、走り出した。大声を出して、ちっぽけな自分が輝きに埋もれないように。
心が逸る。美しい世界に圧倒されて、その中で負けじと思う気持ちがまわるを水平線の向こう側に急かす。
どれだけそうして走っただろう。気づけばまわるはこの世界の境界に立っていた。その気づきはまわるの直感だった。目に見えるような壁や敷居があるわけではない。星空と海は際限なく広がったままだ。でも、まわるにはここが境界なんだと言うことがわかる。この世界がまわるの夢だからだろうか?
後ろを振り返ると、星の海が煌めいている。
少しばかり、それはまわるには眩し過ぎた。
意を決して一歩を踏み出す。すると、今まで自分の歩みを支えてくれていたはずの海が、途端に本来の性質を取り戻して、まわるの一歩をその体ごと飲み込んで……。
シナリオ:yuu
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