明日も会おうね
明日も一緒に遊びましょう!
夕日で長く伸びた影が、どこへともなく流れていく。きっとそれぞれの家路があるのだろうと思うと、音喜多まわるは少しばかり寂しくなった。
まわるも朝過ごした家に向かって歩いていく。そこが本当の帰る家でないとしても、今のまわるには帰る場所はそこしかなかった。
喫茶店でもらった幸福な気持ちを惜しむように、歩みは自然とゆっくりになる。頭の中に喫茶店でたらふく食べた美味しいものが浮かんでは流れる。フルーツタルト、ショートケーキ、カフェラテ、キャラメルマキアート、ナポリタン、カフェモカ、モンブラン……思い返すたびに口に含んだ瞬間の幸福が想起される。間違いなくどれも絶品であった。ただ、お金が足りるのかという問題に帰りがけに気づいた時には、さすがのまわるも肝が冷えた。皿洗いも辞さぬと意を決して財布を覗くと、意外や意外。記憶をなくす前のまわるはかなり景気が良かったらしく、喫茶店の出費などまるで問題にならないだけの金額がそこにはあった。その場で喫茶店の支払いを済まして事なきを得たが、この財布は本当に自分のものなのか不安になってしまう。
歩みを止めて近場のベンチに腰掛ける。まわるは改めて先ほどの財布を取り出して、まじまじと眺めてみた。ふかふかと触りごごちの良い、キャメルレザーの二つ折財布だ。少し味気ないと思ったのか、ライトブルーの小さなテディベアのキーホルダーが付いている。財布より少し小さいくらいのサイズ感のそのテディベアは手足が可動するようで、何となく動かしてみる。そのぎこちない動きが何とも愛らしい。記憶をなくす前のまわるはきっと可愛いものが好きだっただろうと、まわるは他人事のようにそう思った。まわるの手のひらの上で手足をわたわたさせるこのテディベアを、今のまわるも気に入っているのだからきっとそうだろう。
しばらくそうした後で、テディベアに律儀にありがとうと小声でささやくと、まわるは財布をしまった。そして立ち上がり、また家路を辿っていく。先ほどよりも足取りは軽やかだった。明日もきっと自分の記憶を探すだろう。
答えはゆっくり探せばいいのだ。
シナリオ:yuu
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